はじめに
新しく会社を作ったりグループを立ち上げて活動を始めたり、そんな時にその組織を象徴するような簡単なマークが欲しい、と思いすぐにイメージするのがロゴマーク。このロゴマーク、当たり前すぎてあまり深く考えないけれど、そもそもいつごろ誰が作り出して、どんな歴史をたどってきたのでしょう。
歴史を振り返ることで、ロゴマークを生み出すヒントが見えたり、新しいロゴマークを思いつくきっかけを手にすることができるかもしれません。実はロゴマークって、人の繁栄の歴史ととても深い関係があったのです。
ロゴタイプとシンボルとタイポグラフィ
ひとことでロゴマークといってもこの言葉はわりと最近できた和製英語だということはよく知られています。もともとロゴマークは絵柄で表す「シンボルマーク」と文字デザインの「ロゴタイプ」という二つの要素から出来上がったものをいいます。
18世紀ごろの産業革命以降、それまでは農業中心だった人の社会がどんどん技術的に進歩を遂げ、ロゴの世界も印刷技術の登場により大きく進化します。印刷技術により文字のデザイン(フォント)や文章全体の体裁を整えるタイポグラフィが生まれ、やがて文字とシンボルマークとも融合して現代的なロゴマークが誕生しました。
紀元前に生まれ産業革命で花開いたロゴ
ロゴの発祥はなんと紀元前3000年頃に現れたシュメール人が使い始めた円筒印章だとされています。円筒印章はその後、紀元前2300年頃のメソポタミア文明でも所有者などを示す印として、さまざまな情報を刻印した重要なアイテムとして使用されていました。
紀元前2600年ごろのマリのイシュタル神殿で発見された円筒印章。
引用元:Wikipedia
紀元前600年ごろには硬貨などでもロゴが使用されているのが発見されています。硬貨におけるロゴマークの代表的なものは、1602年に設立された世界初の貿易会社「オランダ東インド会社」のオランダ語名称Vereenighde Oost Indische Compagnieを略した「VOC」の文字がモノグラムのように刻印された硬貨が有名です。
17世紀にはすでに、企業名をロゴマーク的に使用していたとは驚きですね。
オランダ東インド会社の「VOC」が刻印された硬貨
引用元:Wikipedia
18~19世紀の産業革命の時代には広告産業が一気に進歩します。広告では画像とタイポグラフィーが統一された新しい技術が生まれます。
一方で大量生産や「時は金なり」という思想が広がり、これに対抗してものづくりや生活、そして芸術を統一させようとイギリスのウィリアム・モリスが提唱した「アーツ アンド クラフツ運動」がおこり、これがデザインという考え方が生まれるきっかけになりました。この運動は幕末の日本の思想家、柳宗悦にも影響を与えたと言われています。
文字(フォント)の進化
円筒印章の紋章だったものが、産業革命の時代にはデザインにまで進化を果たしました。
一方で文字の世界も大きな変化を迎えます。文字の発祥はおよそ5000年前ともいわれ、始まりは象形文字や楔形文字とされています。古くはおよそ2000年前のローマ皇帝トラヤヌスが戦勝記念碑に刻んだ文字が残されており、この字体の「trajan(トレイジャン)」は現在でも使用されているフォントです。
その後印刷技術のない時代には、文字を書く基本的な作業と言えば写本でした。写本でも文字を目立たせる工夫が施されており、例えば文中を模様で埋めたり文頭を装飾するなど、8世紀から12世紀ごろの洞窟画や壁画、ヒエログリフに跡が残されています。
15世紀中ごろにグーテンベルクによる活版印刷の技術が開発されると、中世の時代特有のブラックレターという書体が生まれます。
15世紀初頭にブラックレター体で書かれたラテン語の聖書
引用元:Wikipedia
そして産業革命は文字の進化にも大きく影響を与えることになります。
それまでの書体とは異なるディドやクラレンドン、サンセリフのようなメリハリの利いた書体が誕生しました。20世紀になるとデジタルフォントが登場し、現代ではバリアブル・フォントと呼ばれる技術も誕生し、文字の世界も限りなく自由度が高くなっています。
時代を象徴した企業ロゴ
1876年イギリスのビール醸造会社Bass Breweryが世界で初めて商標登録した印象的な三角形の自社ロゴが、現代のロゴマークの始まりと言われています。
Bass Breweryのロゴマーク
引用元:ASOBOAD
これ以降、企業や製品、ブランドなどさまざまなロゴマークが誕生し、特に文字が読めなくても存在や個性を認識させるために、グローバル化が進む産業分野では飛躍的にロゴマークが浸透しました。
有名企業のロゴの中でも特に印象的なもののひとつがナイキです。
当初から用いられている「SWOOSH」と呼ばれるロゴマークは、古代ギリシャ神話における女神ニケの翼を表しています。1969年ナイキの創設者フィリップ・ナイトが当時グラフィックデザインを学んでいたキャロライン・デイビッドソンに時給2ドルでデザインを依頼。実はデイビッドソンはこの後4年間ナイキで働き、のちに100万ドル以上に相当するプレゼントを贈られたそうです。
創業当初と企業名の文字がなくスウッシュのみになったナイキのロゴマーク
引用元:Workship MAGAZINE(ワークシップマガジン)
21世紀を代表する世界的企業と言えばやはりスティーヴ・ジョブズとスティーヴ・ウォズニアックが創設したAppleですね。創業当時のAppleのロゴは現在のものとはまったく異なっていました。当初のロゴは第三の共同創業者と言われるロナルド・ウエインがデザインしたもので、ニュートンがリンゴの木の下に座っている印象派的なものでした。
その後、ロブ・ジャノフによって、現在のリンゴの右側をかじったようなロゴマークが誕生し、初代は7色のレインボーカラーでした。このロゴはカラーリングを変えながら現在も使用されています。
左は創業当時の印象派的なロゴ。右は現在のリンゴモチーフロゴのカラーの変遷。
引用元:iPhone Mania
まとめ
ロゴマークはシンボルマークとロゴタイプのふたつの要素から成り立ち、どちらも長い歴史を持ち、特に17世紀から始まった産業革命の影響を受け大きく進化しました。この当時にデザインという新しい概念と、文字の世界でも次々と新しいフォントが誕生し、印刷技術の向上とともに、広告産業の中でどんどん昇華していきました。
やがて企業や商品、さまざまな組織などのブランディングとしてのロゴマークが定着。有名企業のロゴは時代を象徴するアイテムとしても、多くの人々から愛される存在になりました。
今後もどのようなロゴマークが誕生するのか、楽しみにしながら注目したいですね。